歯科ブログ
「エビデンス」と「顎関節症」
おはようございます、八木歯科医院です。
やっと春が来そうですね! ただ今週末にかけて天候が良くないようですが、暖かくなるのが楽しみです。
ところでみなさんは「エビデンス」という言葉をご存知でしょうか?
先日、内科の先生と共通の患者さんの件でお話しする機会がありました。その患者さんは婦人科、整形外科、内科、歯科と現在4つの科を同時に受診されています。内科の先生は、それぞれの科から処方されている薬の中には「エビデンス」の低い薬もあるようなので、一度個々の薬を整理する必要があるのでは?との話をされていました。もちろん医療従事者同士の会話ですので違和感なく話は続きましたが、
後述することがきっかけで「エビデンス」という言葉は患者さんはご存知だろうか?とふと思ったのです。
どの分野でも、その分野の人間しかピンとこない用語、業界用語があると思います。
今回は「エビデンス」という医療分野での用語を、頭の片隅にでも置いていただけたら、と思いました。
私たち医療従事者は日頃から患者さんに分かっていただき易いように話すように心がけていますが、もし分からない言葉があれば、ぜひご質問ください。
さていつものように前置きが長くなりましたが、辞書で「エビデンス(Evidence)」と引けば、「(立証するための)証拠(物件)、物証、証言、証拠、、、」と出てきます。ではこの言葉の使い方を、日本歯科医師会の冊子などを参考にご説明いたします。
私たちはこの言葉を、ある治療の根拠となる論文、その中に含まれるデータ、研究結果」という意味で使っています。
また最近は、個々の論文やデータを指すのではなく、一つのトピックスに関する世界中の研究結果を共通の透明性のあるルールに従って作成した統合の研究結果の総称として使うことが多くなってきました。
例えば、Aという薬のある病気に対する効果に関する論文が5つあり、その中の1つのみが「効果あり」、残りの4つは「効果なし」とされていた場合、以前だと先生によってはその「効果あり」という1つの論文のみを根拠に薬が処方されていましたが、今はその薬は「エビデンス」が低いとされ、通常処方されないことになります。
「エビデンス」とは高い、低いと表現されることが多い、そういう用語です。
それではもう一つのテーマの「顎関節症」です。
今回は当院の「顎関節症」に対する治療方針をお伝えいたします。、、、と言ってもシンプルなことで、「日本顎関節症学会」で決められた「顎関節症患者のための 初期治療のガイドライン」というリーフレットに従っている、という事だけです。
もちろん歯科医師側には詳しい専門冊子がありますが、基本、というか全ては見開き1ページに簡潔に書かれた患者さんのためのリーフレットにある通りです。当院も待合スペースに置いていますので、ぜひ一度ご覧ください。
内容は以下の3点です。
Q1、「顎関節症だから、歯を削って調整します」 それって、有効?
A1、いきなり歯を削るかみ合わせの調整を受けるのは、できるだけ避けましょう。
この勧告に対しては「GRADE 1D : 強い推奨 / "非常に低" の質のエビデンス」です。
Q2、あごの筋肉が痛いとき、スタビライゼーションスプリントは有効?
A2、スタビライゼーションスプリントを使った治療を受けてもいいでしょう。
同様に、「GRADE 2C : 弱い推奨 / "低"の質のエビデンス」。
Q3、顎関節症で口が開かないとき、開口訓練は有効?
A3、開口訓練をするのはいいでしょう。自己流ではなく、歯科医院で説明を受けてから、行ってください。
同様に、「GRADE 2B : 弱い推奨 / "中"の質のエビデンス」。
このリーフレットをお読みいただくとお分かりのように、「顎関節症」治療に対するエビデンスとなる研究結果は未だに少なく、現状では私たち一般開業医は平均2週間の初期治療の経過観察の後、改善がなければ専門医の紹介をお勧めすることになります。
ただ、幾つかの要点を覚えておいてください。
①、「口を大きく開け閉めした時、あごに痛みを感じる」場合、「顎関節症」の可能性があること。
②、開口障害25mm(これは痛みなく口を大きく開けた時、ご自分の人差し指、中指、薬指の3本が縦に少し余裕で入れることができる程度です)未満の場合、「破傷風」の疑いもあること。お笑いにならないでください。これは命に関わることです。いずれの科でもいいですので、すぐに受診してください!
③、徐々に開口障害が進行している場合、腫瘍による可能性がありますので、この場合もすぐの受診をお願いいたします。
④、あごの痛みの程度を0〜100点で点数をご自分でつけてみてください。0〜30点の場合は治療の期間も短く、予後も良いと思われます。逆に80点以上の痛みがある場合は、「顎関節症」が原因でないこともありますので、この場合もすぐに専門医をご紹介しますので、ぜひご来院ください!
以上です。
最後となりますが、毎回お伝えしてますように、「何もなければ、それで良し」と思っていただき、いつも早めの受診を心に留めておいてください。